変性性脊髄症①
後ろ足がもつれるという高齢のコーギーが来院しました。
話を聞いてみると、1ヵ月前くらいから後肢がもつれるようになり、少しずつ進行しているということです。歩き方を見ると、後肢の力が入りづらくヨロヨロしてしまい、触診上で神経が弱くなっていることが分かりましたが、痛みを感じている様子はありません。
コーギーで後肢の麻痺がある場合に、大きく2つの可能性が考えられます。
1つは「椎間板ヘルニア」であり、突然の後肢麻痺を発症しますが、通常は痛みを伴うケースが多いので、今回の症例は少し違います。
もう1つの可能性は「変性性脊髄症」です。腰部脊髄の神経細胞が変性し、それが徐々に頭部と尾部へと進行するという疾患で、最初は後肢の麻痺から症状が始まり、徐々に前肢の麻痺へと進行して起立不能となり、最終的には呼吸を支配する神経も機能を失って亡くなってしまいます。
そしてこの疾患の最大の特徴は、進行が非常に遅いというところにあります。後肢の麻痺が始まってから、後肢が完全に使えなくなるまで約1年半、前肢が完全に使えなくなるまで約2年半、呼吸が抑制されて死に至るまでにおよそ3年かかります。
またコーギーに多いという理由は、この疾患に遺伝的な要素があるからです。SOD1遺伝子という遺伝子に変異が生じていることにより神経細胞が悪影響を受けて変性性脊髄症を発症すると考えられていますが、コーギーはこの遺伝子変異を持つ個体が多くみられます。
ちなみにSOD1遺伝子の変異は人でも起こりますが、人では「筋委縮性側索硬化症(ALS)」という疾患を発症します。ALSになると全身の神経が障害を受けて、徐々に筋肉が衰えていき、数年で亡くなってしまいます。バケツに入った氷水をかぶるという運動が著名人を中心に一時期流行りましたが、それはこの疾患を広めるためのものなので、記憶している方もいらっしゃるでしょう。
さて、続きは次回に話します。