僧帽弁閉鎖不全症④

今回は僧帽弁閉鎖不全症の内科治療についてのお話です。

前回は僧帽弁閉鎖不全症の手術の話をしましたが、現在のところ手術を行うにはハードルが高いため、現実的には内科治療を行う事がほとんどです。その内科治療の中でもキーとなるのが「ピモベンダン」という薬です。その作用は、心臓の収縮力を強めると同時に、血管を拡張して、心拍出量を増強させるというものです。僧帽弁閉鎖不全症のワンちゃんは血液の流れが悪くなり肺水腫という呼吸困難状態に陥りやすいですが、ピモベンダンはそれを防ぐ効果があります。

世界11ヵ国で行われた大規模試験でも、症状の無い僧帽弁閉鎖不全症のワンちゃんが心不全に陥るまでの期間を、「ピモベンダンを使用した群」と、「ピモベンダンを使用してない群」で比べると、「ピモベンダンを使用した群」の方が、心不全に陥るまでの期間を15ヵ月も延長させる効果があることが認められました。

僧帽弁閉鎖不全症の症例の多くで、ピモベンダンを投与することにより心臓の負担を楽にすることができます。場合によってはピモベンダンだけで安定した状態を数年間維持することも可能です。ただしピモベンダンは心臓の負担を軽減しているだけで、壊れかけている僧帽弁を治しているわけではないので、それでも病態は徐々に進行していきます。その場合にはピモベンダンを増量したり、ACE阻害薬という血管拡張剤や、利尿剤など多剤を組み合わせたりすることにより、病態が進行していかないようコントロールしていくことになります。

ただし末期の僧帽弁閉鎖不全症のワンちゃんでは、多剤を併用しても症状のコントロールが困難となるケースもあります。その時には入院して、静脈から利尿剤を投与したり、高濃度の酸素室に入ってもらって呼吸状態の安定化を図ります。また飼い主様自身で、酸素室を業者からレンタルして家庭内でも使ってもらう事もあります。

さて、今までのブログでも述べた通り、僧帽弁閉鎖不全症の怖いところは、その病気があるのを気付かずに、いきなり肺水腫となり亡くなる事があるということです。高齢の、特に小型のワンちゃんを飼っていらっしゃる方は、聴診をさせてもらえば僧帽弁閉鎖不全症があるのか無いのか分かりますので、気になる方は来院をお勧めします