免疫介在性血小板減少症①

糖尿病で毎日インスリンを打っているワンちゃんが、「さっきインスリンを打った場所からの出血が止まらない」という事で来院しました。

インスリンは背中に打つことが多いのですが、確かにインスリンを打ったであろう場所から出血が続いており、その周囲が腫れ上がっています。インスリンの針はものすごく細いため、通常は出血することは多くありません。また出血した場合でも、すぐに止まることがほとんどです。

このワンちゃんは数年間インスリンを使い続けていますが、このような事は今回が初めてであったため、何か問題が生じている可能性が考えられます。そのため血液検査を行ったところ、出血を止める働きをする「血小板」の値が、通常15万以上あるところが「0」という結果でした。血小板が血液中に全く無いということです。機械のエラーという事も考えられるため、血液を顕微鏡で確認してみたところ、やはり血液中に血小板はありませんでした。

血小板が無くなってしまう場合に考えられることは…

 ①血小板が免疫異常により壊されてしまっている

 ②骨髄という血液を作る部位に問題が起きて、血小板が作られなくなっている

 ③大量出血により血小板が消費されている

 ④何かしらの基礎疾患により血栓が形成されて血小板が消費されている

 ⑤寄生虫感染により血小板が壊されてしまっている

などが考えられます。

①~⑤の鑑別のために追加検査を行って、②他の血球成分は異常なく骨髄疾患はなさそう、③明らかな出血部位はなし、④明らかな基礎疾患はなし、⑤寄生虫の感染はなし、ということが分かったため、①の免疫異常の可能性が高いと考えられました。

これはすなわち「免疫介在性血小板減少症(または自己免疫性血小板減少症)」と呼ばれる病気であり、何らかの原因で免疫が過剰に働きすぎて、自分の血小板を攻撃して壊してしまっているということです。この病気になってしまうと重度の出血が突然起こって、それによる失血で亡くなってまうということもあるため、早急な治療が必要となります。

通常治療の第一選択は、ステロイドを用いて過剰に働いてしまっている免疫を抑えるという事になります。ただし糖尿病でインスリンを使っているワンちゃんは、ステロイドを使うと糖尿病の管理が上手くできなくなり、合併症を引き起こしてしまうことがあります。そのため、今回はステロイド以外の治療方法を考えなければいけませんでした。

続きは次回にお話します。