獣医師のお仕事③【手術編】

11月ブログ担当、獣医師の今林です。

さて獣医師のお仕事、次は【手術編】です。手術という言葉は良く耳にするかと思いますが、実際に見てもらう機会がないので、一回の手術にどれだけの人数でどの位の時間をかけているかなどイメージしづらいですよね。今回のブログで少し身近に感じて頂けたら幸いです!

当院では、大体1日1件以上、緊急時など多い時は4件位かぶってしまう事もあります。以前は手術台も1台しかなく、スタッフも少なかったので、お昼休憩15分で続けて手術のような過酷な時代もありました。しかし現在は数年前の改装で手術台が2台となり、またスタッフも増えたのでだいぶ余裕ができました。

まず、飼い主さんから犬猫さんをお預かりした後、手術前の準備として、獣医師の手が空いている時に、「留置(りゅうち)」という、点滴や鎮静剤、麻酔薬を静脈から入れるための細い管を犬猫さんの血管に設置しておきます。プラスチックの細い管を医療用テープで前肢(ぜんし)につける形になるので、なんでも食べてしまう子は手術の直前に設置したり、また太っていて血管が見えない子や前肢が短い子は後肢に設置するか、筋肉注射にするかなどを考えます。

午前の診察受付が11:30で終了ですので、そこから午後の診察開始の16時までの間に全ての手術が終わるよう、当日手術のある獣医師同士で順番や場所を相談しておき、手術が立て込んでいて忙しい時は午前診療が終わりかけたくらいから準備に入る事もあります。

(なので、午前ギリギリの診察は担当の獣医師が対応できないこともありますので、早めに来院して頂けると助かります。)

続いて、スタッフが2人以上空いたら、犬猫さんを連れて手術室へ入り、いよいよ麻酔をかけます。麻酔下では呼吸が弱くなるので、酸素を供給し安定して麻酔を吸入できるよう、気管に細いチューブを入れます。これが「挿管(そうかん)」です。パグやフレブルさんなどの短頭種では事前に酸素化をしっかりしておく、興奮する子の場合、来院が早すぎて「ぜぇぜぇ」してのどが腫れると挿管のリスクが上がるのでギリギリに来院してもらい、そのまま麻酔をかける場合もあります。性格や犬種によっても少し違います。

(ちなみに猫の避妊去勢手術の場合、留置は設置せず、筋肉注射で麻酔をかけ、挿管せずマスクで行います。これは、猫で使う薬剤は犬ほど呼吸抑制がかからない為、マスクでも安定した麻酔管理ができる、また犬より猫の方が気管による刺激を受けやすい為、短時間の手術なら、なるべくチューブを入れずに済ましてあげたいからです。)

麻酔が効いてきたら、実際に手術が始まります。挿管して吸入麻酔で維持しながら、心電図や血圧計、SPO2(酸素飽和度)、二酸化炭素分圧などのモニターをつけます。

手術をする獣医師は基本1人で、手術の内容によっては助手がもう一人。麻酔管理、器具だしなどの外回りが1~2人。手が空いていれば見学に来たりするので、手術室に5~6人いることもあります。

避妊去勢手術などの予防の手術は1時間以内に終わりますが、会陰(えいん)ヘルニアや脊髄造影からの椎間板ヘルニアといった大掛かりな手術は3時間近くかかることもあります。

無事手術が終わると、次は「覚醒(かくせい)」です。麻酔を切り、覚めるまでの間異常がないか観察します。高齢や病気で弱った状態での手術の場合は、覚めるのにも時間がかかります。若い子ですと、麻酔を切って15分くらいで、目覚め始めるので、喉に入っている気管チューブに違和感があり「ケホっ」とむせる反応が出てくれるので気管チューブを抜きます。これが「抜管(ばっかん)」です。その後、自力で呼吸が出来ているか観察しながら、様子が落ち着くのを待ちます。性格によってはパニックになってしまう子もいるので、お互いケガしないようゆっくり目覚めてくれるのが理想です。

人間に比べると、痛みに強いとは聞きますが、当然痛みは感じています。分からないうちに全身麻酔をかけられて、急に目覚めたら痛い状況って人間だったら考えられないですよね。

それでも術後少し経つと、しっぽをふっておなかを見せてくれたり、頑張ってご飯を食べてくれたりして、本当にみんなすごいです。

なので、自宅に帰ってからは、なるべくゆっくり過ごさせてあげて、無理して身体を動かしすぎないよう飼い主様が気を遣ってあげましょう!

さて、長くなりましたが、少しは伝わりましたでしょうか?

最後までお読み頂きありがとうございました。