急に後ろ足を引きづる
今月のブログを担当します獣医師の草開です。
先日午前までご飯も食べて元気もあって何ともなかった3歳猫ちゃんが、午後から急に後ろ足引きずり痛そうにしていて呼吸が速いという事で急遽来院されました。
病院に到着した時も後ろ足に力が入っておらず口呼吸をしていました。ワンちゃんが口呼吸することはよく見られると思いますが、猫ちゃんが口呼吸をしている場合、熱中症や呼吸困難を起こしていることが多く緊急性が高い場合が多いです。
突然猫ちゃんが後肢を引きずり、呼吸が速い場合に想定していなければいけない疾患として血栓症がまずあげられます。血栓が作られる要因としては、心臓の筋肉が肥大する肥大型心筋症と呼ばれる心筋症が関わっていることが多く、心筋の肥大や不整脈が出ることで血液の流れが悪くなり血栓が容易に作られ、そのまま大動脈にのっていき後肢に流れていく大血管に詰まる事で急性に発症します。
多くは10歳以上などのシニアの猫ちゃんで発生する病気であるため、この子は3歳と若齢のため他の疾患も関わっていないか注意深く鑑別が必要でしたが、レントゲン検査で肺水腫、エコー検査にて心臓の拡大、血栓が詰まっている様子、その影響で後肢が冷たくなるなど総合的に判断し先天性の心筋症による心不全及び血栓塞栓症と診断しました。
特に血栓症の場合迅速な初期治療がとても大切で、両後肢が詰まった場合死亡率が60~70%と言われております。
上の写真のように実際に血栓が足に詰まると肉球の色が明らかに変色します。
治療方針としては、痛みがかなり強いため鎮静・鎮痛剤の投与(痛みが強いとストレスで更に病状が悪化する為)、肺水腫により呼吸困難を引き起こしているため利尿剤の投与、新しく血栓が作られないようにするお薬を中心に入れていきました。
1週間ほど集中的に治療を行い一番危ない山場は超えることはできました。左後肢は徐々に歩行できるようになっていきましたが、右後肢は動かすことが出来ず血行不良により壊死がみられました。このまま放っておくと更に壊死が進んでいき、再度全身状態の悪化が考えられる為全身麻酔を掛けて断脚手術の提案をさせていただきました。心臓がかなり悪い状態の全身麻酔の為リスクはかなり高いものではありましたが無事手術を終える事が出来ました。
あれから1年3カ月経っていますが現在は3本脚であるものの走り回ったりキャットタワーに登ることが出来るほど元気に過ごしています。
猫ちゃんの血栓症は心筋症を患っている場合避けられないリスクな為注意が必要です。心臓がある程度負担がかかってきたら血栓を作りにくくする薬を始めた方が良いのでタイミングの時期を判断する為にも定期検査が非常に大切になってきます。