肛門嚢の疾患②

前回は肛門嚢の炎症の話をさせて頂きましたが、今回は肛門嚢の腫瘍の話です。

肛門嚢にも、他の部位と同様に腫瘍が発生します。高齢のワンちゃんで肛門嚢を絞ろうと、お尻に指を入れて触診した時に、コリっとしたものが触れることがあります。出しづらい肛門嚢の分泌物ということもありますが、目一杯力を入れても分泌物が出てこない時には腫瘍を疑う事になります。

肛門嚢に腫瘍が発生して大きくなってくると、横にある直腸を物理的に圧迫して便が出しづらくなります。また腫瘍から血中のカルシウムを上昇させるホルモンが出るため、高カルシウム血症による多飲多尿で肛門嚢の腫瘍に気付くという事もあります。

そして肛門嚢の腫瘍の最大の特徴としては、あまり大きくなっていない状態でも、お腹の中のリンパ節や肺へと転移する可能性があるということです。外から見て明らかに肛門の周囲が腫れているのが分かる場合や、便が出しづらいなどの症状が出てくる頃には、既に体の中心部に転移している事が多いです。肛門嚢の腫瘍は進行が緩やかではありますが、見逃されることが多く、転移すると命に関わってくることもあるため、できるだけ早期発見、早期摘出したいところです。

手術は、肛門横を切開して、肛門嚢ごと腫瘍を摘出するという方法になります。手術後は肛門嚢が片方無くなってしまいますが、生活上の問題は何もありません。

こちらの写真は、11歳のワンちゃんが初めて当院に来院されて肛門嚢を絞った時に、右の肛門嚢にしこりが見つかったため摘出をしたものです。摘出したしこりは1cm強の小さなものでしたが、「肛門嚢腺癌」という悪性腫瘍でした。現在は転移が出てこないか経過観察中です。

トリミング先で肛門嚢にしこりがあるかもと言われたなど、心配な方はご相談下さい。