獣医師のお仕事④【実践編】
今回は獣医師のお仕事シリーズ4回目の【実践編】になります。前回までお話ししてきた診察~検査~手術までの一連の流れを、実際の症例を交えて説明させて頂きます。
症例は10歳のワンちゃんです。
ここのところ間欠的に下痢があり、食欲も落ちているとのことです。体重を測ると、2ヵ月前は5.6kgだったのが4.7kgに減少してしまいました。またお腹を触るとしこり状のものが触れます。
お腹にしこり状のものが触れることはしばしばありますが、それが必ずしも問題であるかというとそういうわけではありません。腎臓やリンパ節、腸に貯まっている便も触診にてしこり状に触れることはあります。ただし、今回のワンちゃんはもともと食欲旺盛ということでした。そんなワンちゃんが急に食ベなくなってしまい、著しい体重減少もあることから、この時点で大きな問題が隠れていそうであると分かります。詳しい検査が必要とお話しました。
まず血液検査を行ったところCRPという炎症の数値の上昇が見られました。そして超音波検査を行ったところ、小腸に腫瘍を疑うしこりが見つかりました。下図の赤線が小腸壁になりますが5.4mmあり、通常よりも腫れていることが分かります。
よく発生する小腸の腫瘍には「腺癌」と「リンパ腫」という2種類がありますが、これらは治療法が大きく異なります。腺癌の場合には手術で摘出することになりますが、リンパ腫の場合には抗癌剤がメインの治療方法になります。その鑑別のためしこりに針を刺して細胞を顕微鏡で見たところ、腺癌を疑う所見がみられたため、その日から数日間点滴を行って体調を整えてから、手術で摘出を目指すことになりました。
数日後に開腹手術を行ったところ、予想通り小腸にしこり(下図黄丸)が見つかりました。
しこりは1か所に限定されていたため、しこりを含めた前後の小腸を切除して吻合(腸と腸をつなぎ合わせること)しました。
しこりの摘出後は食欲も回復して、下痢も無くなりました。摘出したしこりを病理検査に出したところ、やはり腺癌でしたが、血管浸潤やリンパ管浸潤という転移を疑う所見(癌細胞は血液やリンパ液に乗って転移するので、血管浸潤やリンパ管浸潤が見られると、将来的に転移する可能性が高くなります)は見られませんでした。その後は、転移や再発が出てこないか経過を追っていきましたが、1年半転移や再発は確認されずに完治となりました。
いかがでしたでしょうか? これが診察から検査を経て、手術に至った一例です。我々獣医師は、診察で気になったところを検査で確認し、薬で治るものなのか、手術が必要なのかを考えて日々の診療を行っております。
今回のシリーズで、獣医師のお仕事が少しでも分かってもらえたなら幸いです。