卵巣腫瘍

13歳のメスのワンちゃんが下痢と嘔吐、食欲不振という主訴で来院しました。調べてみるとCRPという炎症マーカーの数値が上昇しており、触診でお腹の中に5cm以上あるかという「しこり」が触れました。

超音波検査でお腹の中を調べてみると、先日のブログの精巣腫瘍のワンちゃんと同じように、他の臓器と繋がりがない由来不明のしこりが見つかりました。その時は去勢手術を行っていないオスのワンちゃんであったため、精巣腫瘍の可能性が第一に考えられましたが、今回は避妊手術を行っていないメスのワンちゃんであることから子宮や卵巣の腫瘍を疑いました。

そこで開腹してみたところ、卵巣の腫瘍が見つかったため摘出しました。下の写真の左側が卵巣腫瘍で、右側が正常な卵巣です。

卵巣腫瘍の場合、発見された時には既にお腹の中に転移がみられるというケースがよくありますが、このワンちゃんの場合は幸い見た目ではっきりとした転移はありませんでした。

摘出した卵巣腫瘍を病理検査に提出すると、「未分化胚細胞腫」という名前の悪性腫瘍でした。未分化胚細胞腫は、どちらかというと卵巣腫瘍の中でも多くないタイプの腫瘍ですが、悪性腫瘍であるため、お腹の中のリンパ節や肺に転移することがあります。現時点では肉眼で分かる転移はありませんでしたが、すでに腫瘍細胞が体の中に広がっているならば、時間の経過と共にレントゲン検査や超音波検査で転移が見つかる可能性もあります。

今後は転移が出てこなければ予後は良好ですが、転移が出てくるようであれば予後は不良です。特定の卵巣腫瘍に、ある程度効果のある抗癌剤というものはありますが、未分化胚細胞腫に関しては、これを使っておけば間違いないというデータのある抗癌剤はありません。

今回のワンちゃんは抗癌剤治療を行わず、転移が出てこないように祈りつつ経過観察という事になりました。あらためて、早期の避妊手術の必要性を感じさせられた出来事です。