腰部椎間板ヘルニア①

後肢が立たず歩けないという14歳のワンちゃんが来院しました。前日までは問題なく歩けていましたが、今日から後ろ脚を引きずり歩けなくなったということです。

体を触ってみると、両後肢が麻痺をしており立つこともできません。犬種がダックスフンドであることから、腰部の椎間板ヘルニアを第一に疑いました。

椎間板ヘルニアは椎体(背骨)と椎体の間にある椎間板が上方向に飛び出し、脊髄という大事な神経が圧迫されてしまう疾患です。腰部における椎間板ヘルニアは、その重症度によってグレードが5段階に分けられています。軽度のものがグレード1であり、グレードが上がると重症度も上がっていきます。

グレード1:麻痺はなく腰部の痛みのみ

グレード2:後肢の麻痺はあるが立ったり歩いたりすることはできる

グレード3:後肢の麻痺があり立ったり歩いたりできない

グレード4:排便排尿を自分の意志でできない

グレード5:後肢を思い切りつねっても全く痛みを感じない

今回のワンちゃんは、歩くことはできないけれど排尿は自分の意志でできていたため、グレード3という判定でした。ただしグレード3以上である場合は手術の適応になります。

手術を行うには椎間板ヘルニアがどこの椎体間で起こっているか特定することが必要なため、他院にMRIを撮りにいってもらいました。分かりづらいかと思いますが、下図の青矢印(白が濃い部分)が下から飛び出した椎間板です。椎間板によって、脊髄(赤い丸)がおよそ半分以下の太さに潰されてしまっています。

MRIを撮った翌日に手術を行ったところ、予想通り多量の椎間板物質が飛び出していたため、それを取り除き脊髄の圧迫を軽減することができました。

ただし、手術直後に麻痺がすぐ回復して後肢が元通りになるということではありません。およそ2か月かけてリハビリを行いながら、ゆっくり麻痺が良化していくのを待ちます。今回のワンちゃんも徐々に麻痺が消えていき、2か月後には元のように歩けるようになりました。

次回は椎間板ヘルニアに端を発して、致死的な経過を辿る「進行性脊髄軟化症」についてお話します。