腰部椎間板ヘルニア➁

前回、腰部椎間板ヘルニアのお話をしました。

椎間板ヘルニアが起こると、麻痺による運動失調の症状が起こりますが、通常は命に関わる問題になることはありません。ただし、グレード5レベルの重度の椎間板ヘルニアの5~10%では、椎間板ヘルニア発症時に脊髄が受けた衝撃が上行性(頭の方向)および下行性(尾の方向)に広がっていき、脊髄が軟化壊死してしまう「進行性脊髄軟化症」という病態に発展します。

腰部椎間板ヘルニアでは後肢の麻痺は起こりますが、通常は前肢に麻痺は起こりません。しかし進行性脊髄軟化症に発展してしまうと、脊髄の壊死が進行していくことにより発症後およそ2~3日で前肢の麻痺が始まり、発症後1週間ほどで横隔神経の麻痺から呼吸不全に陥り窒息死に至ります。

進行性脊髄軟化症に発展してしまうか否かは、椎間板ヘルニアの発症時点では外から判断がつきません。たとえ早期に椎間板ヘルニアの手術を行うことができたとしても、進行性脊髄軟化症に発展してしまうこともあります。また進行性脊髄軟化症がもし起こってしまったら、薬を使ったり手術を行ったりして進行を止めるということもできず、大半のワンちゃんが数日で死に至ります。ただし稀ですが、脊髄の軟化が途中で止まって、体の麻痺が残ったり寝たきりになってしまったりしますが、命が助かり生き永らえるワンちゃんもいます。

このような恐ろしい病気であるため、重度の椎間板ヘルニアの場合には、我々獣医師も進行性脊髄軟化症のお話をしてから治療を始めるようにしています。椎間板ヘルニアが、命に関わる場合もあるというお話でした。